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Agust D 【BTS trivia #1 】楽曲解説



 

 

 

BTSのメンバーとしてだけでなく、数々の人気アーティストへの楽曲提供やコラボレーションなど、今やプロデューサーとしても一目置かれているBTSのSUGA。

そんな彼が2016年にAgust D名義でリリースした自身初のソロMixテープ『AgustD』に込められたメッセージやサクセスストーリーに迫ります。


SUGAがAgust D名義でリリースした初のMixテープ 『Agust D』は、『Intro ; Dt sugA(Feat.DJ Friz)』から『so far away (Feat.수란)』までの全10曲で構成されています。
(Apple musicなどの各ストリーミングサイトでは1、2曲目の配信なし)


Agust Dの名前の由来はSUGAの故郷である大邱(Daegu Town)と“SUGA”を合わせて反対から並べたものだそうです。
生まれ育った故郷、そしてソウルに上京し呼ばれるようになった2つ目の“SUGA”という名前が重なった特別な名前は『Agust D』という2曲目に収録されていてる曲のタイトルにもなっています。

そして、この曲にサンプリングされたJames Brownの『it's Man's Man's Man's World』。
この楽曲のMVには故郷を離れ成功を手に入れた男の物語が描かれています。
直接言及されたことはないもののサンプリングされたこの楽曲の物語のように『Agust D』を皮切りに流れていく楽曲たちは、大邱で生まれ、一躍有名アーティストとなった、ミンユンギという一人の少年がスターダムを駆け上がっていく物語と見事に重なるのです。

 

 

 

Agust D

 

先述の通り、この曲にはJames Brownの『it's Man's Man's Man's World』という楽曲から、James Brownのボーカル「Nothing」「man made the car」というパートがサンプリングされています。

原曲のMVのストーリーは、綿花畑で佇む少年と、少年の過ごしてきた重く暗い歴史。貧しい少年時代に綿花畑でハーモニカを吹いていた少年は、逆境から這い上がっていくようにやがて成功を手にします。
MVのラスト、大きな成功を手にしたJames Brownの住む豪邸の一室には、貧しかった少年が佇んでいたあの場所と同じ綿花が飾られています。

 

男は彷徨う
苦しみの世界を
男は彷徨い 道に迷う
孤独なままで…

James Brown - It's A Man's Man's Man's World (Official Video) - YouTube

 

 

724148~140503

 

『skit』では、SUGAの実のお兄さんとの会話が登場します。
Mixテープをリリースするにあたり“防弾少年団のSUGA”というよりミンユンギとして、何か違う形で音楽をやりたかった…という話や、音楽の道へ進むことを家族に反対されてもお兄さんだけは応援してくれた…ということへの感謝ともとれる会話の後、ミンユンギ少年の物語は、学生時代へと遡ります。


『724148』の724とは大邱のバスの番号で、148とはソウルで乗っていたバスの番号だそうです。
BIGHITのオーディションのポスターを見て大邱からソウルへ上京した頃、豊かに遊ぶ仲間たちを尻目に働き疲れた身体で乗った通学バスのナンバー。

続く『140503 새벽에 (140503 at dawn)』では、歌詞ファイルにも記述がある通り、BTSの『Rain』のビートが使われているそうです。
そして“俺は広い海の島 俺を見捨てないでくれ”という歌詞は、誰にも聴こえない周波数で話す孤独なクジラ『Whalien52』を彷彿とさせます。

またこの曲の大まかな歌詞の内容としては、練習生になった彼の生活と心境が吐露されています。
“2つの仮面”を用意してつよがりの裏に隠した弱い自分は、平気なフリをし、強いフリをし、さみしくないフリをして、誰も近づくなというポーズを取りながらも、見捨てられることを恐れている。

 
この曲に出てくる“2つの仮面”というキーワードは、のちにリリースされたBTSのアルバム『LOVEYOURSELF 承』の『Outro: Her』にも登場しています。
弱い自分を守るためにつけた仮面は、『Outro: Her』で愛をくれる者(例えば私たちARMYだったり)の為につける仮面へと変化しています。
1st Mixテープで語られたミンユンギ少年の想いを踏まえて『Outro: Her』を聴くと、自分を守る為の仮面が、いつからか大切に想う誰かの為に身につける仮面へと変化した、という一人の青年の内面的な成長を伺うことが出来ます。

 

 

The  Last  

 

対人恐怖症や鬱病を患っていたことをオープンにしたことで話題に上がることの多いこの曲ですが、そのようなセンシティブな“見出し”付きで人々の関心を引きつける必要もなく、間違いなくこの一曲は彼の中の最高傑作の一つです。

花樣年華 パート2 のイントロ曲『Intro: Never Mind』にも登場する「I don't give a shit  I don't give a fuck(どうだっていい 気にしちゃいねぇよ)」という強いポーズは弱い自分を隠す為の言葉だった…と赤裸々に告白する歌詞。身を削り、夢を叶える為、成功を掴む為に張り詰めていく心で上り詰めてきたスターダムへの道。
そして放たれる “俺のファンたち 顔を上げろ 誰が俺ぐらいやれんだよ”というフレーズにミンユンギであり、SUGAでありAgust Dである一人の青年の魅力が恍惚と輝きながら聴く者の心に突き刺さります。

彼自身、当時はあまり好きではなかったと話していた重く暗い曲ですが、こんなにも感情を揺さぶり奮い立つパワーをくれる楽曲を私は他に知りません。

 

 

Tony montana

 

タイトルの“トニーモンタナ”とはユンギがFESTAコンテンツ内で自分を表す映画として挙げていた『スカーフェイス』の主人公の名前です。
アルパチーノ演じる難民の青年が大物ギャングに成り上がり、成功を掴んだのち転落していく…という物語です。
この曲の中で語られるのは、
“成功を手にした今、より多くの望みを抱えようとも、金を追うだけの化け物にはなりたくないのだ”と話す強い信念。そして、成功の先に破滅していったトニーモンタナに思いを馳せ、破滅を望む誰かがいたとしても、「悪いが俺は何も問題ないんだ」と言い放つ頼もしさで、一人の少年の物語は幕を閉じます。
 


『Tony montana』といえば、3rd MUSTER(ファンミーティング)でのユニットステージにて、ボーカルラインであるJIMINがラップを披露したことでもファンたちに愛されている一曲です。
“代替え不可だ”という言葉から始まるJIMINパートは、時に妖艶でいつもふわふわとしていてかわいく優しいジミンくんというイメージとは違い、SUGAと同じように、ただダンスが好きで釜山からソウルへ上京し、身を粉にして走ってきたパクジミンという青年の強さを感じさせるVerseになっています。

デビュー候補生の中で最も遅く防弾少年団に合流し、デビューを掴む為に人並みならぬ努力をした…という逸話はとても有名なエピソードですが、デビュー前、彼の父に「デビューできなくても何かをやり遂げるから、失望だけはしないで欲しい」と語ったという話やデビューを控えた練習生たちに「デビューしたからと言って何かになれた訳じゃない」と語った彼の本質は、とても“Tony Montana的”なように感じられます。

 

 

So Far Away

 

1曲目のプロローグと2曲目の『Agust D』から8曲目の『Tony Montana』までを通して、サンプリングされたJames Brownの楽曲や『スカーフェイス』のように逆境に立ち向かい成功を手にした青年の物語が紡がれてきました。

その後、『Interude; Dream,Reality 』を挟みラストを飾る『so far away』は、友人や現代を生きる若い世代の現状を反映した曲だそうです。


『Tony montana』まで紡がれてきた、ミンユンギの歩んだ軌跡。そして“夢、現実”というタイトルの間奏曲を経て『so far away』が配置された流れは、“もしかするとこうだったのかもしれない世界”を予感させ、映画『インセプション』を好むSUGAらしいなんとも洒落た演出のように思えます。

“遥か遠くへ 飛んでいける夢があったなら”…と歌うこの曲。幼い頃から一つの夢をまっすぐに追い続けてきたSUGAが、なぜ初めてのMixテープのラストをこの対照的とも取れる曲で締め括ったのか…

2018年 BANGTAN BOMBでの年始の挨拶でこんなことを話していました。
「やる事は全てうまくいって、夢が全て叶って
夢がない人も大丈夫です。まぁ夢がないこともあります。幸せならいいんです。」
そして、日々変わっていく状況の中で、瞬間ごとに悩むのが人生だとNaverのインタビュー内でも話していました。
夢がないことがなかった人生を生きて、一つ一つ着実にそれを叶えてきた彼がそのインタビュー当時考えていた事は、人としての価値や幸福についてだと言います。

またIn the SOOP S1では、「昔は頑張ることを人にも強要していたのかもしれない」という後悔を吐露していました。しかし、この時すでに夢を追いかけ夢を掴んだ映画のような物語のラストを『so far away』で飾った彼は、初めから自分とは違う他者を受け入れ慮る心を持っていたのではないかと私は考えます。


夢がなくてもいい。幸せならいいと、希望を持てない人の心にもそっと寄り添えるように、『so far away』は、物語の果てで優しく美しく響くのです。


 

BTSの楽曲にはたくさんの仕掛けがあります。その歌詞の一つ一つに深い意味があり、特にナムジュンの作る曲はとても詩的で予備知識がなければ理解することが難しいこともあります。そしてそこにBTSの楽曲の深みや大きな魅力があるのだと思います。
一方で、SUGAの書く歌詞やサウンドはとてもストレートです。そこに隠された意味はなく、まっすぐな言葉でまっすぐにメッセージを届けてくれる、その音楽や言葉の中のあちこちに彼の人となりの魅力が感じられます。

挑発的に酒を注ぐ音や吐息に慟哭。煽るようなビート音。音源の中に散りばめられた仕掛けは、彼のまっすぐな言葉たちをさらに押し上げ、私たちの耳に響き、心に届き爪痕を残していくように刺さります。

 

2016年の8月にリリースされたこのMixテープの中で『Agust D』で登場する“香港へ届けタンテクノロジー”という歌詞は、“心地良くさせてやる”という隠語の意味と同時に毎年年末に香港で開催されていた歌謡祭MAMAを指しています。
この2016年のMAMAで、BTSは見事大賞を獲ることが出来ました。今よりずっと尖っていたユンギがナムジュンのスピーチ中に肩を震わせ大粒の涙をこぼす姿は、何度観ても心が震えます。
そしてビルボードも然り。ただのビックマウスではなく、口にしたことを現実に変えてしまうパワーが彼にはあります。その成功の土台にあるのは運の良さではなく、努力と強い信念です。簡単に真似することの出来ない苦労だけれど、“努力することを諦めなければやり遂げられるのだ”という強いメッセージを、言葉だけではなく行動や結果で魅せてくれる、こんなかっこいいアーティストを私は他に知りません。

 
“誰が俺ぐらいやれんだよ”とかっこよく言い放つその人は、一方で“僕もまだ不安になるしあなたも不安を感じるのなら、一緒に探し、学んでいこう”と、さみしく不安な人の弱さに寄り添ってくれる優しさを持った最高に人間らしく素敵なアーティストです。

2016年、このMixテープに記された、ミンユンギ少年がSUGAとなり走り抜けた物語は今も止まることなく続いています。

I don't give a shit  I don't give a fuckという顔をして、最高にかっこよく眩しい光を放ちながら。

 

 

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