MENU

바다 (sea) 【BTS trivia #2】



 

花樣年華〜WINGSを経て打ち出されたLOVE YOURSELFシリーズの第一作目となったBTSの5枚目のミニアルバムである『LOVE YOURSELF 承 ‘Her’』。
このアルバムには、円盤(ディスク)にのみ収録されている隠しトラックがあります。

サブスクリプションが主流となった今、ディスクを購入してくれるのは本当に心からBTSに興味を持った人たちであり、そのような人たちにだけ見つけて欲しい…との想いが込められた隠しトラックの「바다 (sea)」。
この楽曲には、デビューから1ヶ月後に非公式音源として公開された「Born Singer」や、1st SINGLE ALBUM『2 COOL 4 SKOOL』の隠しトラック「길」 のように、その当時のメンバーたちの状況や想いが込められています。

 

 

 

 

 

 

1Q84

 

くり返される“희망이 있는 곳에 반드시 시련이 있네 (希望があるところには 必ず試練があるものだから)” という印象的な詩は、RMが愛読しているという村上春樹の小説『1Q84』からきているそうです。
 (ちなみに日本語訳では 「-이 있네」 を「〜があるものだから」と小説に登場する原文と揃え意訳しています。)


小説の中に登場する先述の一文からインスピレーションを受けて作り始めたという「바다」。

冒頭から聴こえる波の音は、よく耳を澄ますと砂嵐のような音にも聴こえます。
この海とも砂漠とも受け取れる効果音はその先に紡がれる“海”と“砂漠”の話を美しく予感させています。
0:18の足音は海とも砂漠とも分からない道なき道を踏みしめ歩いていくメンバーたちの様子を彷彿とさせ、ドラマティックな演出のバトンは美しいギターのイントロへと受け渡されていきます。

 

RMパートにある“あの頃より もっと喉が渇いている” という詩の“あの頃”とは「RUN」の“君の為に咲き いつも喉を枯らした”に連動しているように思います。
美しい海が目の前に広がるのに、走り出したあの頃よりも、どうしてだか喉が渇く。目の前に広がる海が現実だと知っているのに、もしかしたら何もない砂漠なのかもしれない…という恐怖が一曲を通して横たわっています。

 

 

 

サウンドとリリックの連動


 
SUGAパートでは、過去の回想の後の2:37頃、“結局 蜃気楼(夢)を掴んで 現実になった ”という詩とリンクしながら、サウンドに海の水が満ちていくようなSEが入ります。
“海が満ちた”というのは、爆発的な人気を誇るようになる寸前の、たくさんの視線を集めることが可能になった彼らの、その当時の状況を表現する言葉だと受け取っています。
2:50〜海の水が溢れ、溺れるような音から水中にいるかのようなくぐもった音に変わるのは、望んだはずの成功に溺れ飲み込まれていくような心境が表現されているかのようです。
そして続くVerseでは、低く響く深海のようなビートに乗せて溺れるような音たちが、ラッパーラインの会話部分をより物悲しく憂鬱に演出しています。

 

SG : 泣きたくない、止まりたくない
j-hope : いや、少し休んだらどうだ?
RM : いや、ダメだ

 

曲のフックの部分で聴こえる、印象的な子供の声のSEは、2017年当時のヒット曲の傾向もありますが、幼い少年達の面影を彷彿とさせます。

小説『1Q84』の中でも主人公二人が幼い頃に過ごした日々の描写がキーとなりその後の運命的な展開へとつながっていきますが、このSEをきっかけに“幼い少年たちが足を踏み鳴らし走り回るようなビート”は、曲中に登場する度にボリュームを上げ、勢いを増し、やがて大きくなった足音は、華麗に舞い踊る、彼らの群舞を思い起こさせるかのようです。

 

 

砂漠と海に込められた想いとは!?

 

j-hopeパートに登場する“ナミブ砂漠”の“ナミブ”とは、現地の言葉で“何もない”という意味だそうです。
砂漠に浮かぶ“蜃気楼”という言葉は「Born Singer」にも登場していたキーワードですが、それは自分たちに愛ある視線を注ぐファンたちの存在や彼らの夢を表現しているのではないでしょうか。

2017年当時、小さなステージから始まり誰かの代打でさえも夢だった日々を乗り越え、世界のビルボードの舞台に上がった彼らは、全ての目標を達成してしまったようで「これ以上の目標はどこなのだろう」と思っていたそうです。
「바다」のラストで歌われるのは、
“僕たちは絶望しなければならない
このすべての試練の為に”という言葉です。

一見すると苦しく憂鬱な詩ですが、個人的にはとても希望的な意味のように捉えています。
広い世界で、もっと翼を広げて高く高く飛ぶ為に、彼らは“絶望しなければならない”のだと歌っていたのではないでしょうか。

WINGSツアーのアンコールで流れていたVCRの一節に、“涙は笑顔のもう一つの名前。絶望は希望のもう一つの名前”という言葉があります。
この言葉を彷彿とさせる「바다」 のラスト。
涙は笑顔のもう一つの名前で、絶望は希望のもう一つの名前。
そして花樣年華〜WINGSで重要となるキーワードを拝借すれば、私たちは“一緒にいれば笑う事が出来る”のです。
 


始まりは砂漠だった。
そして今彼らの目の前に“青く広がる広大な海”とはコンサート開場を埋め尽くしたARMYたちによるARMY BOMBの光が作り出す海です。
(「잠시」 に登場する“僕たちだけで楽しもうぜ  一緒にいた思い出の青い海の真ん中には小さな島”という詩でもコンサート会場を包むARMYたちの光を“青い海”、彼らの立つステージを“小さな島”と表現されていました。)

 

 

The Most Beautiful Moment

 

2022年。
9年目のBTSは10年目を目前に新章を迎えるそうです。
2017年には誰も想像していなかったであろう、グラミー賞という大きな賞を逃した今、RMは「今自分たちに必要なのは原点回帰なのではないか」と話していました。


そして「Yet To Come (The Most Beautiful Moment)」のTeaser内で、過去の作品を思い起こさせる衣装を纏ったメンバーたちは、広大な砂漠の中を歩いていました。
Teaser冒頭で一人砂漠を歩くVの姿と共に聴こえるのは砂漠の砂嵐の音ではなく、波の音そのものでした。


自分たちのいる場所は海なのか、砂漠なのか、と葛藤し、すべてが消えていく蜃気楼なのではないか…とどこかで思っていた彼らは、今、たとえ砂漠を歩こうとも、自分たちの歩む場所はどこでも海なのだと、私たちARMYと共にいるのだと、視覚的に伝えてくれているのではないでしょうか。
どんな場所を行こうとも私たちは“一緒にいれば笑う事が出来る”から、私たちの最高の瞬間は“まだこれから”なのだと期待して…