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j-hope Jack In The Box 徹底解剖(解説・考察)



BTS j-hopeのソロアルバム『Jack In The Box』。

『Jack In The Box』=びっくり箱と名付けられたこのアルバムはその名前の通り、これまでの明るく楽しいj-hope像を覆す視覚的イメージやサウンドにより世界中のファンを驚かせました。また世界的アーティストKAWSとのコラボレーションで彩られたアルバムカバーも大きな話題をよんでいる『Jack In The Box』。このアルバムの感想を交えながらサウンドとリリックをARMYによる視点からの解説・考察していきます。

(お時間のある日にぜひヘッドフォンを片手に読んでいただけると、このアルバムが今よりもっと好きになるはず!?)

 

 

 

1.  Intro

 

『Jack In The Box』の幕開けとなる「Intro」はj-hopeの名前の由来となったギリシャ神話の‘パンドラの箱’の物語の朗読によるトラックです。

ゼウスによってあらゆる災いを閉じ込めた箱。その箱を託されたパンドラは好奇心を止められず、ついにその箱を開けてしまいます。この世界に解き放たれたあらゆる災いの中、パンドラは後悔に苛まれながら箱の底に残った見たこともない美しい生き物を発見するのです。

あらゆる災いを閉じ込めた箱の中で最後に残った、たった一つの希望…。
「Intro」はこの言葉で閉じます。

(このおはなしと全曲の和訳リンクはこの記事の最後に貼っています。)

 

希望はあらゆる災いの中であっても人々に生き続ける意志を与えたのです。

悲しみと後悔の中絶望するパンドラの前に現れ、繊細で美しい翼をはためかせながらパンドラの周りを踊る希望。それはまさしく私たちの中の“j-hope”の姿を彷彿とさせます。

 

 

2.  Pandora's Box

 

まるでファンタジー映画の幕開けのようなサウンドから一転、2曲目の「Pandora's Box」では“希望”という名前を背負った日からこれまでの物語が語られます。
PD陣はj-hope本人を始め、練習生時代から共に歩んできた「Cypher」シリーズでもお馴染みのSupreme Boi、BTS「Black Swan」やAgust D「What do you think?」などを手がけたGHSTLOOPが名前を連ね、BIGHITのサウンド感を味わうことができます。

ラストのフックでは、アルバムタイトルである“Jack in the box”=びっくり箱を巻くようなギリギリとした効果音がおそらくj-hope自身の声でビートのように組み込まれていたりと重く緊張感のあるサウンドの中にも楽しい遊び心を感じられます。

 

 

3.  MORE

 

先行公開されたタイトル曲「MORE」は、オールドスクールと記載されていますが、ヘビーなギターやベースのフレーズはエモロックを彷彿とさせ、ジャンルレスな雰囲気がとても魅力的な一曲です。
リリックの中に“11年目の独学中”という言葉が出てきますが、ダンサーとして練習生になり、そこからラップや作曲を学んできた彼だからこそ持っている、ジャンルという枠組みに捉われない自由さを感じることができます。それはこの曲に限らず彼のサウンドを聴くたびに感じるポイントですが、中でも「MORE」では音楽的な知識を持たずとしてもより多くの人が自由な感覚を掴めるのではないでしょうか。

 

“耳にKicksnare, 聴こえるhit that”から始まるverseでは“踊る赤ん坊のフロウ”というワードが信じられないほど本当に踊っているようなラップのリズムがとても心地よく流れます。
韓国語と英単語を上手く織り交ぜながらラップそのものがビートの一部になっている表現力や言葉の組み合わせの緻密さ。このことからもj-hopeというアーティストのポテンシャルの高さが感じられる場面です。
また“ダリの絵画に心酔する”というリリックの箇所では、「画家のダリ」と「韓国語の“달리(別の、反するもの)”」をかけた言葉遊びが。個人的な解釈ですが、芸術に心酔する様子と共にいつも予想と反した“想像とは別のもの”を突きつけてくるアーティストとしての彼の様子がこの一つのフレーズに集約されているように感じました。

そしてビートが収まり吐息と共に始まる“Inhale exhale(吸って吐いて)”の場面。この言葉にはスラングとしての意味もあるそうで、気だるくトランス状態に入っていくような歌い方やサウンド効果、“生きているみたいだ”…という言葉が意味する音楽への没入感などがより立体的に表現され、まるで演劇を見ている時のような体験が耳から飛び込んできます。

 

 

4.  STOP

 

STOP (세상에 나쁜 사람은 없다)」

日本語で“世の中に悪い人はいない”というタイトルを持つこの曲。ポジティブなタイトル通り世の中に心から悪い人なんていないはずだ、という希望的なメッセージで着地するものの、サンプリングされた争うような人々の声、verse2で鳴るオルガンの不協和音のような音からも、清廉潔白な人ばかりではない、というこの世界の不条理を見つめ、その上で、それでも人を信じたいという彼の率直さと温かさを垣間見ることができます。

 

また2021年の誕生日に行ったVlive内で、この曲のタイトルと同名の小説を紹介していましたが、小説の内容は別物ではありながらも、この曲のテーマとの共通性をとても感じました。

この短編集の中のとある話の内容に触れますが、

同じマンションに住む不気味な住人に対して、ひょんなことから話してみるととても良い人だった。主人公は、先入観や思い込みから何か恐ろしい隠し事があるんじゃないか、と疑っていた自分が愚かだったと省みる。しかし、話してみると案外良い人だった彼が、悪いことなどするはずがない…という考えすらも思い込みなのではないか……と思案する(『ウサギと斧』より)

この物語がとても心に残っています。楽曲の中の“Stop Change our minds”から始まる最後のverseで語られる“一切のすべては心が作り出すだけ”という詩に先述の短編を思い出しました。

作者あとがきに、この掌編小説(短編よりも短いサイズのもの)が、これから生まれる作品のより良い1ページの布石であり、習作になることを望み、または焚き火にくべるための乾いた薪になってほしい…と書かれていたのが印象に残っています。
偶然にも「Arson」という曲の登場するこのアルバム。この小説を読み何かを受け取ったことは、ホソクくんがこの作品を作った火種の一つとなっているのかもしれません。

 

 

 

 

 

 

5.  =(Equal Sign)

 

90年代オールドスクールのスタイルを基盤としたキャッチーなメロディを持つ曲。

人は誰しも平等であり、互いの違いは尊重されなければならない…というメッセージの込められたこの曲。

“僕たちは心のパズルの中のピースだ”というフレーズは、1st Mixtape『HOPE WORLD』に収録された「P.O.P (piece of piece),pt.1」の

“もしも僕が誰かの光なら 平和のピースでいられますように” というリリックが思い起こされます。
当時、「pt.1」と名付けたことについて、こうした話をこれからも続けていきたいという想いから…と話していたことから、もしかするとこの「=(Equal Sign)」は「pt.2」としての位置付けとしても考えられるかもしれません。当時のVliveで「(平和を願う)この小さなパーツが一つになったらどんな大きな平和が作られますか?」と問いかけていたホソクくんの願いの、その続きがこの曲に込められているのではないでしょうか。

 

追記:このブログのUP後に出たインタビューでまさに「P.O.P (piece of piece),pt.2」だと思っていると話していました。*1

 

 

6.  Music Box : Reflection

 

BTSのメインプロデューサーであるPdogg氏作曲のこの曲。

“希望”という名を背負い走り続けてきたj-hopeを表すかのような吐息、「Pandora's Box」にも組み込まれていたびっくり箱を巻くような音など、これまでとこれからの音楽がタイトル通り反射するように交錯する演出は、アルバムの分岐点として、10曲を通してのストーリー性をより高めています。

“Reflection”という単語には、光や音などの反射という意味のほかに“内省、沈思、熟考”といった意味もあるそう。

 

 

7.  What if...

 

Ol' Dirty Bastardの「Shimmy Shimmy Ya」をサンプリングしたオールドスクールヒップホップ曲。

輝かしい道を走りながらいつも笑顔を絶やさず希望を振りまく自身のペルソナと自我との対話のような構成のリリックは、どんなスターダムを駆け上がりどんな輝かしい世界に身を置こうとも決して舞い上がらない彼の魅力的な一面をダークな視点から見たようで、とても新鮮でありながら一人の人間としてのj-hopeの立体的な魅力を存分に示しています。

“もし全て持っていなかったとしても それでも同じように振る舞えんのかよクソが”と締めるこの楽曲のテーマは、サンプリングされたShimmy Shimmy Ya」のダークな中にも少し戯けたようなサウンドがとてもしっくりきます。

 

楽曲の中で繰り返される“もし持っていなかったら?”という問いは、Agust Dの「Strange」でフィーチャリングしたRMのパートで語られた、すでに持っている者がこの世の不条理や疑問を話す権利があるのか?という悩みに共通項を感じました。

先日メンバーたちがここ数年抱えていた気持ちを涙ながらに吐露し、大きな反響を呼んだ「バンタン会食」。その中でホソクくん自身は言葉少なく、ナムジュンの言葉に全面的に同意をするような様子はありませんでしたが、『Jack In The Box』を聴いて、あの日あまり物事を深刻に捉えず、一人先に前を見ているかのように見えた彼の心の内にあった葛藤や心境は、メンバーたちが話していたものと同じだったのだと感じました。

 

 

 

8.  Safety Zone

 

R&Bの曲でボーカルとコーラスが甘く印象的な一曲。

三連符の組み込まれた心地良いフックの流れや、j-hopeの声で鳴る合いの手がビートの一部になっているところにも音楽的な遊び心を感じられるが、リリックでは気の休まる“安全地帯”はどこにあるのだろうか?という悩みが語られています。

明るくポジティブでなんでもやってのけるヒーローのように扱われてきた青年の心の葛藤やヒストリーが語られてきた一連の曲中で、この楽曲で話している“どこにいても心休まることはなく、立ち止まって自分を振り返るための切り株も見つからない”という悩みは、彼に限らず、現代を生きる多くの人が持つ共通の悩みなのではないかと思いました。

 

「Blue Side」の2021年に公開されたヴァージョンのアートワークの中にJack In The BoxとPANDORA'S BOXという文字が描かれていましたが、この時点ですでにこのアルバムの構想はあったそうです。

そしてこの「Safety Zone」の中に登場する“blue”とは心の中の“blue side”という意味があるのだそう。(リリース後のVlive談)

 

 

9.  Future

 

再びヒップホップに乗せて届けられるこの曲は、自分の手ではどうにもならない“未来”について、ただ道理に従い進みながら流れに身を任せ希望に賭けてみようという明るいメッセージが込められています。

曲のクライマックスに登場するグリークラブを彷彿とさせる子供たちの合唱の声は「未来」というタイトルにより強く希望を感じられる演出効果を狙ってのことなのではないでしょうか。

 

 

10.  Arson

 

「MORE」に続くタイトル曲である「Arson」。ホソクくん本人がこのアルバムのテーマを最もよく表現していることからアルバムの最後に入れたと話していた通り、このアルバムの最後を飾るにふさわしいパワーを持つ秀作です。

トレンドを抑えたシンプルなビートと3分に満たないミニマムな楽曲のサイズの中で、11年間彼が培ってきたアーティストとしてのスキルやパフォーマーとしての表現力が約2分半の中にこれでもかと積み込まれています。

ビートのように重なりグルーヴを作っていく冒頭の“burn”“done”という声は、エンジンをふかすようにこれからの展開に期待を持たせます。“It's done”という“成し遂げた、完成した”という意味の言葉は、数々のトロフィーを手にしてきた王者の風格を思わせ、今、2022年のj-hopeだからこそ成立する説得力のある楽曲へと押し上げているかのようです。

 

43秒からの“기름 샤워해(オイルでシャワーして)”からのverseではフロウの変化と共に声がワントーン上がり、ソロのラップ曲でありながらHighからLowまでの様々な声色が一曲を彩り全く飽きさせません。

彼自身の声がビートの飾りになっていたり、1:45あたりから“一寸先の大きな関門 必要な俺の一手 対局で負けようとも躱す(かわす)一手”というラップの裏でポコポコと口を鳴らすような音が聴こえるのことにもとても遊び心を感じます。

歌詞の“돌을 던질 판도 비껴가는 수”の中にある“돌을 던지다”は

「非難する(石を投げつける)」という意味のほかに「囲碁で負けたと諦める」という意味があるそうです。文字だけを追って“石を投げられても逸らす”という意味として捉えていましたが、トラックの中のポコポコという音は囲碁を打つような音にも聴こえるので、ここでは囲碁を打つ様子を表現しているのではないかと思います。

 

ちなみにBTSの楽曲で声や吐息がビートの一部になっていた作品では「Butter」が記憶に新しく、口の中の粘膜のような音はPdoggプロデュースの「Life goes on」にも添えられていました。(余談ですがVliveでジョングクがたびたび頬を鳴らしてポコポコ音の練習をしているところを見せてくれているのでもしかすると自分たちでサンプリングした音の可能性もあるのかも!?)

このようにこれまでの経験を余すことなく吸収してきた結果、『HOPE WORLD』からたった数年で、これだけの様々な色の引き出しを持つことができたのではないかと思います。

意外なコンセプトで新しさを持ってソロという勝負に挑んだように見えるこの作品ですが、ビートの一部としてパーカッションのように鳴っている彼自身の声による音やサンプリングされた声は、重いサウンドの中にも彼らしい温かさや遊び心を感じます。

またCNS時にも感じたことですがラップ自体がまるでビートのように強拍にかっちりとハマり言葉のグルーヴを作っていくテクニックはダンサーから始まった彼ならではの成せる技なのではないかと思っています。そしてそのラップの心地よさの最高感は作品を出すたびに更新されているのです。

 

 

 

アルバムを通してジャンルレスで自由な雰囲気を持つj-hopeの音楽は、音楽を超えて、声色や音の演出を通して、まるで一つの演劇を見ているかのような鮮やかな情景を思い起こさせてくれます。このアルバムには、サブスクが主流の時代に全曲を通して順番に聴きたいと思わせるだけの表現力があり、知りたいと思わせる彼の物語があります。

 

『HOPE WORLD』はおもちゃ箱をひっくり返したような楽しいアルバムだと書いたことがありますが、全く違うカラーとなった本作『Jack In The Box』もまた、何が飛び出してくるのか分からない楽しさを含んでいます。

あらゆる葛藤と強い意志と渇れることのない野望。

そしてチョンホソクという一人の少年が背負わされた“希望”という重荷。それでもやっぱり様々な色合いを持つ曲順やサウンドの遊びの中に、人を楽しませたいという“j-hopeらしさ”を感じてしまうのです。

パンドラの箱を飛び出した“私たちの希望”の冒険は、これからどんな物語を紡いでいくのでしょうか。

リリース後のインタビューでこれはほんの始まりだと話していました。

きっと誰もがわっと驚くような見たこともないときめきに満ちた次の物語を楽しみに、

私たちは何度でもびっくり箱のレバーを回すでしょう。

そして彼の音楽に触れるとき、私たちの心は温かさで満たされ、どんな苦境の中にいても希望をかけて未来を見つめることでしょう。

 

 

 

『Jack In The Box』全曲 日本語 和訳

 

 

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