今一番HOTな韓国のボーイズグループBTS。
グラミー賞にもノミネートされるなど、熱狂的な人気を誇る彼らの人気をこれまで以上に押し上げた『Dynamite』『Butter』『Permission to Dance』。
デビュー9周年の記念日の翌日に公開されたバンタン会食というコンテンツの中でも話題に上がったこの3曲がなぜこれほどまでに彼らの人気の決定打となったのか、音楽的な視点からその魅力を解説・考察します。
Dynamite
懐かしさの漂うディスコポップサウンドが特徴のこの曲。
曲の 冒頭はビートがなく、ボーカル、ベース、キーボードのハーモニーだけのシンプルな構成で始まります。
派手なイントロや角のある音で一瞬で聴き手の耳を掴む音楽とは対極にあるように、耳馴染みの良いジョングクのボーカルは聴き手の耳にスッと馴染みその後も心地よく続いていくボーカルのバトンとシンプルにまとまった楽曲の短さが、つい何度も再生してしまうというこの曲の魔力に繋がっているのではないかと思います。
シンプルなディスコビートと“6251進行”という循環コードが繰り返されるシンプルな構成の中でボーカルの裏打ちのメロディやスタッカートなどを多用した歌い回し。そしてギターやベースの中にも細かなテクニックが散りばめられ、シンプルな構成にもかかわらず現代的なサウンドに仕上がっています。
ビートが始まる最初のRMパートと同様のフレーズが再び繰り返されるSUGAパートでは、1回目には曇ったエフェクトの音色が、2回目ではよりクリアな音質に変わり開放感が演出され、さらに新たなギターのリフも追加されています。
2回目のサビ部分も同様に1回目に印象的だったピアノのバッキングにギターが加わり華を添えます。
そして世界中の誰もが口ずさめる「Dy-na-na-na,na-na,na-na-na, life is dynamite」の部分からはブラス隊が加わり、これぞディスコポップ!と言える華やかな展開が聴き手の耳を捉えます。
また様々なメロディラインの中で、「Shining through the city~」の部分などにメジャーペンタトニックスケールや「Light it up like dynamite 」というフレーズのリズムにより、ファンク音楽としてのエッセンスを感じられます。後者のフレーズは、裏拍から始まるメロディラインの多い中で唯一全てがシンプルに頭拍で打たれることでも耳に残りやすく、最後の「dynamite」というワードが裏の裏拍で途切れるというのもほどよく引っかかりがありとてもキャッチーです。
そして“今夜 僕は星の中にいるから 僕の火花でこの夜を照らすのを見ていて”という詩の内容もとてもロマンティックで欠かすことの出来ないこの曲の魅力の一つです。
Butter
『Dynamite』につづき全編英語詩で歌われている『Butter』はTeaserの時点でQueenの『Another One Bites the Dust』をサンプリングしているのではないかと話題になりました。BTSがウェンブリースタジアムでコンサートをしたことも記憶に新しい中でオマージュなのではないか…とも一部で噂されましたが、これは偶然だったようで、個人的に『Butter』のビートはマイケル・ジャクソンの『Billie Jean』の冒頭を思い出しました。
ディスコサウンドの王道の名曲を彷彿とさせるドストライクなビート…という印象がありましたが作曲家によるとダフトパンクを意識したという話もあったとか。
『Dynamite』同様、一曲を通してビートやコード進行はとてもシンプルながら、同じメロディにもかかわらず登場するたびに変化をつけてくる仕掛けにより聴き手を飽きさせないプレイヤーたちのバリエーションが楽曲を現代的に彩っています。
この点も『Dynamite』と同様、冒頭のメロディを支えるサウンドはビートのみでジョングクの歌声がまず聴き手の耳を掴み、同じラインを通るVパートでなり始めるベース音はメロディの開始音に対して7度の音になっています。
ベースの A♭に対して、メロディのG♭は緊張感のある響きが特徴の音階で、ブルース進行に乗せて奏でられるペンタトニックにより構成されています。
このファンキーな響きが楽曲の冒頭の緊張感を生み出し、メロディの構成音が通常のスケールへと変わるサビ部分からの開放感を盛り上げています。
またインストゥルメンタル版を聴くとより分かりやすいかと思いますが、ジョングクの息や声がビートの一部になっているという遊び心もこの曲のフックになっているのではないでしょうか。
Permission to Dance
エド・シーランと再びタッグを組んだことでも話題になった『Permission to Dance』。
この曲はJ-POP曲でもお馴染みのカノン進行と期待感を増幅させるコード進行法により構成されており、聴く人の心に懐かしさを感じさせる明るくやさしいサウンドが特徴です。
この曲についてはこちらの記事で詳しく解説しているのでぜひご覧ください。
さまざまな音楽に対応するパフォーマンス力
BTSとして初めて全てが英語のリリックでリリースされたこの3曲。
3曲を通して共通することは
・トレンドに合わせた聴きやすいサイズ感
・シンプルなビートとコード進行のリピート
・潔いシンプルなサウンドを引っ張っていく7人のボーカル力
この3点に尽きると思います。
王道ポップのど真ん中をいくような楽曲がこれほどまでに世界に受け入れられたのは7人の持つテクニックあってこそのものです。
“BTSの良さ”について語られる多くは、ダンスやSNS戦略だったりと“優れた歌唱力”について取り上げられることは少ないのではないか…と思いますが、さまざまなジャンルの音楽に対応できる引き出しの多さと個々の表現力という点において、とても素晴らしい歌唱力を持っていると思います。
そして、7人のバラエティに富んだ7通りの個性の間を縫い合わせていくようなジョングクの声色によりボーカルとラップの奇跡的なバランスがとても耳障りの良い心地良い音楽になって聴き手の耳に届くのです。
幼い頃から誰もがどこかで耳にしたことのあるサウンドにトレンドをミックスさせ、7人の声が彩ったこれらの音楽は、人種や性別や年齢を選ぶことなく世界中の誰もが心から楽しむことのできる音楽です。
Light it up like dynamite
以前のBTSは韓国語で歌うことや自分たち自身が楽曲制作に関わることをアイデンティティーの一つとして話していました。そんな彼らが全編英語詩のシングル曲をリリースし、今までにないポップな曲を聴き戸惑ったファンたちも少なからずいました。
パンデミックによりワールドツアーが白紙になり『Dynamite』や『Butter』が生まれて約2年がすぎたあとで彼らの口から聞くことができた話は、
この一連の流れは、ツアーや計画が全て白紙になり辛い日々の中でチャートや話題性において確実なインパクトを出すことを目指して選択した新たな挑戦だった…という話でした。
バンタン会食というコンテンツで話していたのは、『ON』のリリース後、大規模なワールドツアーを経てBTSの第一章が終わる予定だったにもかかわらず、パンデミックにより全てが白紙になったこと。彼ら自身も未練があったこと。だからこそ、求められるたびに走り続け、いつからか疲労を感じていた。そして立ち止まって考える時間がほしいと思うことや、疲れてしまったと素直に話すことさえ、自分たちを求めてくれる人たちの手前、罪なことのように感じていた、という内容だったと私は解釈しています。
『Dynamite』が世界に受け入れられ、これまで以上の人気が出たことも相まって、彼らが求めていた、これからの自分たちが表現したいことを考える時間や個人が成長していくための時間を持つことができず辛い日々が続いていたのだろうとあの動画をみて受け取りました。
しかしそれは英語曲を出したこと自体を後悔しているという話では全くなく、爆発的に伸びていく世間の人気と彼らの心の温度差の話であると思っています。
もしも、この数年の間の葛藤を涙ながらに話すメンバーたちを見て罪悪感を覚えた“ダイナマイト新規”と呼ばれる人たちがいたとしたなら、何も後ろめたさを感じる必要はないのだと私は思います。
『Dynamite』や『Butter』はそれだけ魅力的でとても精密に作られた素晴らしい楽曲です。
『Dynamite』がビルボードのHOT100で1位に輝いたことは、彼ら7人のこれまでの努力の上にあるアーティスト力によって手にしたタイトルです。
あの時とても嬉しそうに喜んでいた彼らの姿にも、PtoDのリリース前にVliveでとても良い曲ができたと話していたあの笑顔にもどこにも嘘や後悔は見当たらないはずです。
방탄소년단 on Twitter: "This is just... #우리아미상받았네 https://t.co/Kq3uhyACWb" / Twitter
パンデミックに見舞われた世界で、最高に明るくクールな音楽で世界中の人々に楽しさを届け、グラミー賞を総ナメにしたシルクソニックが、同じ2022年のグラミーの授賞式の際、BTSのノミネートされた賞が発表される直前に気にかけてくれていた姿をとてもよく覚えています。個人的にはファンだからこそ、彼らが世界の舞台でどのような評価を得られる存在なのか客観視できない部分がありますが、最高にかっこいい人たちに一目置かれ、気にかけてもらっていた彼らは、きっとこれからもっともっと素敵な存在になっていくのだろうと、とても感慨深く感じました。
そしてシルクソニックがそうであったように、彼らもまた、暗い影を落とした世界の中で明るくファンクとソウルで世界を照らそうと歌っていたのです。
バンタン会食の中でナムジュンは『ドクター・ストレンジ』の映画の世界観になぞらえ、「これが僕の考える、このバージョンの宇宙の中での最善の選択だった」という内容の話をしていました。
彼らの中でどんな迷いがあるのか、今もその葛藤を抱えているのか、その全てを汲み取ることはできません。けれど一ファンとして、この混沌とした世界において人生はダイナマイトだと底抜けに明るく歌っていた彼らをとてもとても誇らしく思います。
これまでの当たり前を失った世界で、時が止まったような世界で、ささやかな日常を照らし続けてくれた彼らの音楽は、紛れもなくこの先もずっと、誰かにとって大切な大切な宝物であり続けるはずだから。