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HOPE WORLD 【BTS trivia】解説・考察



2018年3月2日に公開された、j-hope初のミックステープ『HOPE WORLD』。
BTSの新しいチャプターとなるソロ活動のトップバッターを飾るj-hope『Jack In The Box』をより楽しむ為のヒントになる、前作『HOPE WORLD』に込められたメッセージと音楽的な魅力について解説・考察していきます。

 

 

 

Hope World

 

初のミックステープのタイトルにもなっている「Hope World」。

歌詞の中にも登場しているように、この曲のコンセプトになっているのは、ジュール・ヴェルヌのSF小説『海底2万マイル』だそうです。

『海底2万マイル』はアロナクスが、ネモ艦長の潜水艦に乗り、見たこともない美しい 深海の世界を冒険するという物語。


 
ミクテ公開直後のVliveにて、冒頭の水に潜っていくような効果音はホソクくん本人のアイデアだと話していました。
導入部のビートに重なったノイズにより、潜水艦がぐんと深海に潜っていくような情景が思い浮かびます。そしてはじめのVerseでハーモニーを支えるシンセの音色のフェーザー(音が左右に揺れて聴こえるようなエフェクト)により深海を漂う冒険の始まりを感じます。
次のVerseに移る小節のピポパポと響く電子音やスクラッチによりレコードの回転速度が変化したような音が基本のビートに重なることで“深海を冒険している”かのようなワクワク感が色濃く表現されています。
2:07あたりからのブレイク部分では全体の音質がくぐもったような音、再び歌の始まる直前のワープのような効果音。一度閉鎖感のある音に引き算されたこの演出により最後のコーラスはより一層開放感を感じられる仕組みになっています。


ホソクくんによると、この「Hope World」はアルバムの1曲目であることからも、“j-hope”の名刺代わりになるよう、彼のスタイルを意識して表現したそうです。1曲目の「Hope world」と2曲目の「P.O.P」は、みんなの持っているj-hopeのイメージに合う色合いの音楽を目指したと話していました。
ホソクくんの言葉通り、自然と身体が動き出すようなビートは“希望”という彼の名前にぴったりで、聴いていると気分が明るくなって来るような楽曲だと感じました。
 
たくさんの音色を効果的に使うことで、海の底を漂いながらあちこちと新しい世界(景色)や空間へと進んでいく様子が思い浮かぶ、素敵なサウンドに仕上がっています。
まるでおもちゃ箱をひっくり返した様な楽しいサウンドに乗せて、j-hopeという名のネモ艦長の操縦で進む潜水艦。
世界を飛び回る彼の、“希望の世界”の幕開けにふさわしい一曲です。
 

 

P.O.P

 

2曲目の「P.O.P (piece of piece), pt.1」ではスティールパンの印象的なフレーズが繰り返されます。
スティールパンとは、カリブ海発祥の楽器で、そのルーツを辿ると元々太鼓を叩くことを禁止された黒人たちがカーニバルの際に鍋やゴミ箱を代用したことから生まれた楽器だと云われています。
ホソクくん自身が一つの楽器のバックボーンの諸説を知識として蓄え意味を持って楽曲に使った…という話はどこにも言及されたことがないので偶然この曲のコンセプトに当てはまっていたことかもしれませんが、可愛らしく明るさを感じるその音色は、抑圧され、虐げられてきた人々が、それでも上を向き、音楽を鳴らし、踊り、楽しく生きていこうとした思想から生まれた音色です。

“pt.1”と名付けた意図について、ホソクくんはこの楽曲のテーマについての話をこれからも続けていきたいと語っていました。
この曲に限らず、ミックステープ全体にあらゆる民族楽器が使われています。そして民族楽器の多くはマイノリティと呼ばれた人たちの、強く生きようとするスピリットから生まれたものです。

 

“もしも僕が
誰かにとって光なら
平和のピースでいられますように”

と歌うこの曲。
Vliveでホソクくんが話していたことがとても印象に残っています。
「この小さなパーツが一つになったらどうなりますか?
どんな大きな平和が作られますか?」と。
 


少し話は逸れますが、ジャズ界の巨匠ハービーハンコックが自身の新作にケンドリックラマーやスヌープドッグを招いた…というニュースが話題になった際、異文化であるお互いを尊重し対話をすること、それが今この時代に必要なことだと語っていました。また、ハービーは新作のコンセプトについて、“世界中の人々を1つにすることだ”と話していました。*1

 

 

 

そして、先述の話題で名前の上がったケンドリックラマーといえば、その当時映画『ブラック パンサー』のサウンドトラックが大変大きなヒットを記録しました。
ホソクくんもとても気に入ってどハマりしていると紹介していたサウンドトラックの楽曲たちが彩ったその映画のテーマもこれらのいくつかの話題との共通点を感じます。
人類は皆一つの民族であり、互いの違いを受け入れ、対話をすることが必要なのだ…と。

私たち一人一人が日々悩み感じていることの多くは、とても些細なことでしょう。平和なように見えるこの国に生まれ、食べるものに困ることなく、アイドルのことを考えられる幸せな毎日。何の影響力もない、ちっぽけな存在かもしれないけれど、ほんの些細なことだとしても、今、自分たちを虐げてきたものや人を許し、受け入れてあげること、自分とは違う異質な存在を認めることが、j-hopeの話す“大きな平和の中の小さなピース”になれる一歩なのではないでしょうか。


 

 

Airplane

 

子供の頃、“飛行機に乗って空の上を飛んでみたい”そんな夢があったと話すホソクくん。
今となってはプライベートジェットで世界中を飛び回るような世界的スターとなった彼ですが、そんな幼い頃の夢を彷彿とさせるこの楽曲は、はじめOutroとして考えていた曲だったそうです。
飛行機に乗ってこの音楽を聴きながら夜空を眺めていたら、スラスラと歌詞が出てきたと話していたこの曲。楽曲の中でメンバーたちの声が聴こえますがクレジットに記載の通り“Gang Vocal”としてBTSのメンバーたちも参加しています。
なぜメンバーに一緒に歌って欲しかったのかについて「いつも一緒に飛行機に乗り、同じ時間を過ごしている人たちだから」と話していたのがとても可愛らしく感動しました。
その時に話していた“自分たちのチームに自負心がある”という話や膨大な時間をかけて完成させたミックステープも一人で作ったものではなく、最高のメンバーたちの助けがあったからこそ完成したのだと話す彼の姿は、ホソクくんの人柄がとてもよく滲み出てとてもかっこよく印象的でした。
 

また、「Airplane」には“僕たちの成功”という意味が込められているそうです。
幼い頃に思い描いていた飛行機に乗って空を飛んでみたいという夢。

楽曲の中にはBTSの花樣年華期において外すことのできない名曲、「Whalien52」の鳴き声のようなSEが。これは、誰にも声の届かない場所で歌い続けていた「Whalien52」だった、成功前の過去の自分たちとの対比なのではないかと考えます。
 
「Whalien52」の “僕の未来に向かっていく あの青い海と 僕のヘルツを信じて”という歌詞は、ホソクくんが書いたパートだそうです。(RUN BTS!談)
自分を信じて走り抜けてきた時間の先にあった“成功”を歌った「Airplane」。
この曲は、ホソクくんの音楽人生の中で、一生忘れられない曲になったと話していました。
2018年当時、今が全盛期なのかもしれない。自分にとって最高時点の時に作った曲になるかもしれないと語ったホソクくん。
そんなことを語った次の瞬間、
「正直 もっと高く上がりたいです。
人の欲はキリがないから。」と笑っていた顔が最高に素敵でした。
ミクテ公開後のVliveの最後に、ARMYに向けて「これからも足りないところは努力して満たしてもっと良い音楽を届けます」と話していましたが、いつも誰かを思いやり、自制心を強く持ち、ストイックに過ごす彼に、足りないところなんて見当たりません。しかし、そういった彼の中にある底なしの厳しさや野心が無限に成長していく彼の持つ魅力や原動力につながっているのではないかと感じました。

 

 


 
「HOPE WORLD」の楽曲を聴くと、
POPで楽しく明るい気分になるのに、どこか切なく泣きたいような気持ちにもなるのはなぜでしょう。
 
それは、このミックステープに収められた7曲に込められた音楽的な仕掛けや、平和を願うメッセージ、また彼の声から感じるエネルギーを通して、いつか飛行機に乗って飛び回ることを夢見ていたチョン・ホソクという人の、内面の美しさや果てしない努力の痕跡、そして深海のように底なしの温かさを感じるからではないでしょうか。
そして彼の魅力に触れたとき、それぞれの心の中にHOPE  WORDが生まれるのではないでしょうか。