MENU

BTS Proofが100倍好きになる手引き(楽曲 解説・考察)

 

2022年6月10日発売のBTSのアンソロジーアルバム『Proof』についての記事です。

 

“Anthology”とは異なる作者による作品を集めたもの、または同一の作者の作品集を指す言葉で、『Proof』=証、と名付けられたこのアルバムは、防弾少年団の過去、現在、未来に対するメンバーの想いを盛り込んだ内容となっているそうです。
古くからのファンにはとても思い出深くこれまでCD未収録だった「Born Singer」から始まり、歴代のタイトル曲を詰め込んだディスク1、各メンバーが自身のソロ曲とともに選んだユニット曲の収められたディスク2、未発表曲やデモ音源を収録した円盤のみで聴くことのできるディスク3など、合計48曲が収められた『Proof』。

その中から各ディスクに収録された3曲の新曲について考察、解説していきます。

 

 

 

 

 

Yet To Come

 

ミディアムテンポのオルタナティブヒップホップジャンル曲で、制作メンバーには、BTSデビュー当初から彼らの楽曲を手がけるメインプロデューサーであるPdogg氏やSUGAとのコラボでお馴染みの米シンガーソングライターMAX、Dan Gleyzer、RM、SUGA、j-hopeの名前がクレジットされています。

公式の楽曲説明によると2000年代に流行したチップマンクソウル(Chipmunk soul)のサンプリング法が用いられているそう。カニエ・ウェストが多用したことから広がったチップマンクソウルとは、R&Bやソウルのボーカルをサンプリングし音程と速度を自由自在に調節・配列を変えを経てビートに乗せる手法を指すそうです。

 

R&Bやソウルのボーカルからサンプリングされる…とのことですが、BTSの楽曲について、自身の楽曲からであっても他のアーティストの楽曲でも、サンプリング元がリリースされているものの場合、必ずクレジットに曲名の記載があります。その為サンプリング元が他のアーティストの楽曲である可能性は低く、BTSのこの曲から…というのも想像の域を出ませんが、個人的な感想としては、『花樣年華 Pt.2』に収録されている「Whalien 52」や『BE』収録の「Life Goes On」に登場する子供の歌声のような音の回転数を変え新たに配列したのではないかと思います。

 

「Yet To Come」のサブタイトルは“The most beautiful moment”です。
The most beautiful moment”とは日本語で“花樣年華”であり、この曲のMVでは、これまでBTSがリリースしてきた楽曲のMVのシーンたちが再現されていました。
一つの節目として、これまでの思い出を振り返りながら“花樣年華はまだこれから”なのだと、今の彼らの等身大の想いが込められたこの曲。

子供の歌声のような音は「Whalien 52」の歌声なのではないかと考えています。花樣年華以降も他の楽曲やコンサートの演出に登場したりとBTSとARMYを象徴するモチーフとしてたびたび登場してきた、52Hzの誰にも届かない声で歌う孤独なクジラは、新しい章へと旅立つ今この時も彼らと共にある…という意図なのかもしれません。

「Yet To Come」の中に登場する“13歳の頃と変わらずただ音楽が好きなだけだ”といった内容のリリックは、誰にも届かないけれどいつか誰かに届くことを願って歌っていた、あの日のWhalien 52の姿と重なります。

 

これからの未来に期待を抱くかのように一貫して明るいカラーで進むこの楽曲。トップノートはアメリカのシンガーソングライターMAX氏によるものだそうです。SUGAとのコラボでもお馴染みの彼が、こうしてタイトル曲に制作メンバーとして参加していることの縁も感慨深く、MAX本人の持つ何の混じり気もないピュアな明るさや人柄が、より一層この楽曲の持つ明るい味わいを引き上げているように感じました。

 

 

MAX on Twitter: "so honored to be a part of the new BTS song “Yet To Come” 💜" / Twitter

 

 

 

 

Run BTS

 

歌詞の冒頭に登場する“論峴洞(ノンヒョンドン)”とは、練習生時代からデビュー間もない頃に7人の住む宿舎とBighitの社屋があった場所です。当時の物語から始まるこの楽曲は、10年の月日を振り返りながら互いのペースメーカーとして走ってきた7人が互いに贈る応援歌のような楽曲です。

曲の後半、j-hopeパート前のブレイクでビートの音質が変わり、ロックバンドの生ドラムのようなカラッとした響きからのサウンドの展開はとても爽快です。

また、ヒップホップビートに乗って繰り出されるリズミカルなラップの“三者三様さ”というBTSの持つ大きな魅力を堪能できる一曲でもあると感じています。

 

 

RMパートでは“got them”のリピートから似た語感の“Goddamn!”によって意味がくるりと変わる言葉の巧みさが、j-hopeパートでは“고생s(コセンス・「お疲れさま」のくだけた言い方)”から“so thanks”で韻を踏み、“Get ready”の羅列と韓国語の組み合わせによる言葉のリズム感の心地よさが。SUGAパートのテクニカルなラップに乗せて送られる歯に絹着せぬ物言いは聞いているこちら側もスカッと爽快感を感じずにはいられません。
ちなみに韓国の歌番組の放送審議では、歌詞によくない言葉が使われている…との理由で放送不適格判定が下りたとのニュースがありましたが、SUGAパートによる結果ような気がしています。出てくる単語を辞書で調べるとより楽しめると思うので韓国語の学習をしていない方もぜひ。(私の和訳では日常で使うものなのか分からなかったのでマイルドな言葉に置き換えています。)

 

この曲のj-hopeパートに登場する“チョウォン”とは韓国映画『マラソン』の主人公の名前だそうです。あらすじを要約すると

自分の脚は“百万ドルの脚”だと思い込んだ主人公と彼が心から走ることを楽しむ姿を見守る周囲の人々を描いた実話に基づいた物語

だそうです。

心から走ることを楽しむ主人公が周囲を巻き込み奇跡を起こしていく様子はまさに彼らの姿に重なるようで、すでにある文学や芸術を用いて何重にも歌詞の深みが広がるテクニックにとてもBTS的な要素を感じます。

 

 

 

 

 

 

For Youth

 

花様年華 YoungForever』に収録されたEPILOGUE:YoungForever」がサンプリングされたこの曲は、BTSとARMYが共に過ごしたコンサートでの思い出を振り返ることから始まるファンソングです。

リリックの中には『WINGS』に収録されたファンソング「2!3!」のフレーズが登場します。

하나 셋 우리의 합(1、2、3! 僕たちの合)”という詩の“합(合)”とは2つ以上の異なるものが一緒になる…という意味の言葉であり、人種や性別、住んでいる場所や環境も全く異なる彼らと世界中のファンたちが共にある、という様子がこの一言に集約されているように感じます。

それぞれのパートの歌詞はメンバーそれぞれが過去に話していたことやたくさんの思い出と重なることも、どこまでが考えられてのことなのかは定かではありませんが、まるで聴き手の思い出の数だけ深く大切な曲になる仕掛けのように思えます。

EPILOGUE:YoungForever」「2!3!」の他にも「春の日」というワードや「春の日」の“You're my best friend”というワードも。そして「Save me」を彷彿とさせる“ 내밀어 주겠니(その手を差し伸べてくれないか)”というフレーズが登場することもとても印象的です。

※「Save me」では 손을 내밀어줘(その手を差し伸べてくれ)

 

 

そして、ARMYとは「Adorable Representaive M.C for Youth(若者を代表する愛らしいセレモニーマスター)」の略であり、「For Youth」と名付けられたこの曲は言い換えれば「ARMYへ」というタイトルにも受け取れます。

 

ワルツにのって比較的アナログなサウンドで届けられた彼らからの愛のあふれるメッセージは、まるでプロムのクライマックスで流れるバラードのようにも思えます。

歌番組でも一緒に踊れそうなささやかな振り付けがありましたが、プロムとは卒業を目前にした学生たちのために開かれるイベントであり、視点を変えれば新たな旅立ちを意味するイベントです。新しいチャプターに向かう前に共に踊るダンスのようで、嬉しくもほんのりとさみしさを感じますが、“人生が果てるその時まで一緒にいるよ”というメッセージは、いつでも変わらず私たちの心にそっと寄り添ってくれたこれまでの彼らの歌声と何ら変わりなく温かく心をほぐしてくれるように思います。

 

楽曲の冒頭にサンプリングされたEPILOGUE:YoungForever」は、曲の終わりのVパートの“For the rest of my life”と重なり再び響き始めます。

“人生が果てるその時まで一緒にいるよ”という言葉と“永遠に青春は続く”のだという言葉を重ねてARMYへ贈るラブソングは幕を閉じます。

 

 

 

 

 

Proofに寄せて

 

 

「For Youth」のクレジットにはRMを筆頭としラッパーラインの名前の他にHiss noise、Slow Rabbit、“hitman”bangといったBTS初期からの楽曲を手がけるPD陣の名前がありました。BTSのメンバーたちと比べてほんの少し年上なだけの、まだ若い青年だったSlow Rabbit氏が初めて歌番組で1位をとった彼らの姿に涙したことはたくさんのARMYの記憶に残っているでしょう。

「Dynamite」や「Butter」を経て、確実なヒットを生み出せる世界の名だたる有名トラックメイカーに楽曲提供を依頼することも容易いであろう現在において、初期のBighit色を色濃く出したこの選択にも、7人と彼らと共に歩んできた楽曲制作陣の想いを感じます。

 

 

『Proof』のリリースと9回目のデビュー日の翌日にアップされた『バンタン会食』を経て始まったBTSのチャプター2。

これから彼らが走っていく道のりがどんなものになるのか、ARMYである私たちも手探りの中で、今、とても“7人”であることを感じます。

『バンタン会食』を受けて(意見はさまざまだと思いますが)今、個人的には、7人であることを強要したくはなく、それぞれが想いのままに過ごしていてほしいと願っています。

しかし、ソロ活動のトップバッターであるj-hopeのリスニングパーティーに訪れたメンバーや、SNSやゲームのチャットの中で、j-hopeのかっこよさを話すメンバーたちの姿や、誰よりも他の6人に聴いてほしいとYouTubeのインタビュー内で話していたj-hopeの姿に、とてもチームであることを感じました。

これからユニット曲や音楽以外の活動を始めるメンバーもいるであろう中で、彼らが今感じていることの数々がこの『Proof』の中に込められているのでしょう。

この先、一人きりで闘わなければならないときも「Run BTS」の“ we got us(よく見ろ 俺たちには俺たちがついてる”という詩のように、それぞれの存在は彼ら自身にとってとても心強いものであり、力強く走っていく為の原動力になるのでしょう。
そして、もしも新しいチャプターに変化していく中で不安になるのなら、「For  Youth」に込められた想いをそっくりそのまま届けたいと思うファンたちがこの世界に溢れていることを思い出してほしいと願っています。

7人がそれを望むうちは「Yet To Come」の“Promise that we’ll keep on coming back for more(何度だってカムバックし続けるって約束するよ)”という言葉を胸に、まだこれから訪れるであろう最高の瞬間を期待して、ここに居続ける者たちがいるということを、どうか忘れないでいてほしいと。

 

刻々と変化していく世界の中で、共に同じ時を過ごし真心でつながるかのように別々の人生を歩んできた私たちのProofを抱きしめて、
また会えるその日まで、私たちは7人の歩き出したチャプター2と共にそれぞれの人生を走り続けるのでしょう。

私たちにとって、いつだって誰よりもスペシャルな7人の背中を追いかけるように。