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Permission to Danceが100倍好きになる手引き

 

2021年7月9日にリリースされたBTSの『Permission to Dance』。


先に公開された『Butter』がBillboard HOT100にて驚異の7週連続1位の記録を更新する中で発表された新曲は『Make It Right』に続くエド・シーランとのコラボ曲としても話題です。
そんな『Permission to Dance』について、楽曲をますます好きになれるような魅力や音楽的な仕掛けについての健忘録です。

 

 

 

 

1  音と視覚で楽しむストーリー

 

『Permission to Dance』はイントロ・アウトロのないミニマムな構成です。
曲の始まりと共に聴き手の耳を捕まえる、Jungkookの甘く掠れた歌声からは、楽曲の持つ明るさとほんのりと感じる切なさのスパイスを一気に感じ取ることができます。
多くのポップソングでは1回目のコーラス後、
“1番と2番の歌”と呼ばれる“2番”の部分で最初のメロディが再度くり返されますが、この曲でのVerse 1(Jungkook→RM)のメロディは一度きりしか登場しません。
Verse 1の「エルトン・ジョンに合わせて歌うだけさ」という歌詞にも登場するエルトン・ジョンの代表作『Your song』。『Your song』冒頭の語りかけるようなメロディのように、この曲の冒頭のメロディや歌い方はまるで物語の始まりのプロローグのようです。
サブスクの音源は3分なのに対して、MVではプラス1分、楽曲が長くなっていますが、MVラストでのみくり返される“Da na na na na na na”の部分では、フォーカスされてきた登場人物の全キャストが再登場したり、ダンサーをバックに踊る7人の姿など、ミュージカルのカーテンコールのような雰囲気も感じられ、Verse 1のプロローグのような雰囲気からクライマックスまで、まるで一つのステージを観劇したような楽しさを味わえる、そんな仕掛けになっているのではないかと感じました。

例えるならこのMVは、エド・シーランチームがBTSの7人に当て書きをした脚本でMV監督が演出をしBTSが演じるミュージカルのような作品です。


以前コンテンツ内で別の楽曲についてSUGAが曲のサイズのこだわりを話していたように、配信版は最近のトレンドに合わせ、聴きやすい短いサイズに、視覚的にも楽しめるMVでは、より楽曲のメッセージを感じられるストーリー仕立てに…とそれぞれの環境に適した違いにもBighit(HYBE)らしさを感じます。

 

 

 


2  カノン進行だけじゃないコードのスパイスの秘密

 

 

『Permission to Dance』についてメンバーたちも「誰もが楽しめる音楽」と紹介していましたが、この楽曲には「カノン進行」と呼ばれるコード進行が使われています。
カノン進行とはヨハン・パッヘルベルのカノンに用いられた進行で、ビートルズの『Let it be』、オアシスの『ドント・ルック・バック・イン・アンガー』などの超有名曲をはじめ、日本のヒットソングの中でも沢山の曲で使われていることで有名なコード進行です。

あまりにもベタな響きから時に“禁じ手”とも呼ばれているこのコード進行は、誰もが聴き馴染みがあり安定感を感じられる音の流れを生み出します。
(日本のヒットソングではスピッツの『チェリー』、楽曲を手がけたエド・シーランの曲では『What Do I Know?』もコードの響きに少し捻りが加えられてはいるもののカノン進行をベースにした流れになっていると思います。)
そしてPre Chorusでは「6345進行」へスライドします。これまで一小節に2コードだったところ、一小節1コードになることで音楽の幅が伸びやかになり、曲の盛り上がるChorus前の助走部分としてとても心地良い流れになっています。


Chorusでは再びカノン進行が戻り、Chorus後半部分では再度6345からカノン進行へ。

 

(canon)
E - B - C#m - B    A - G#m - A - B 
(6345)
C#m    G#             A                B
(canon)
E - B - C#m - B    A - G#m - A - E


6345進行のⅥ度にあたる【C#m】のマイナーな響きが
“We don't need to worry〜”の部分で登場することによりポップで明るい雰囲気の中に切なさを匂わせる効果が。


このコード進行は日本語で“期待感 増幅進行”とも呼ばれているそうで、その呼び名の通りメジャーコードのトップにマイナーな切ない響きがくることで次の展開への期待感を高めます。
また、切ない響きのコードに乗せて歌われる歌詞は、世界のステージに立つ機会が増えはじめた頃インサイトのインタビューで語ったSUGAの言葉を思い出す内容になっています。

 

We don’t need to worry 
‘Cause when we fall we know how to land 
(心配いらないよ
もしも墜落するときが訪れても僕たちは着陸す         る方法を知っているから)
【『Permission to Dance』より】

 

あまりにも高く飛んでいるようです。

とてもたくさんのものが見えるし、 とても遠く見えます。 
下を見ると時々怖くなりますね。
僕たち一緒に飛んでいることに勇気をもらいます。
墜落は怖いけど、着地は怖くありません。
一緒にいてくれてありがとうございます。
【インサイト インタビューより(※和訳は意訳を含みます)】

 

先述の『Let it be』や『チェリー』でもChorusの始まりはⅥ度のコードから始まり、6345とほぼ同じ進行になっています。ただ底抜けの明るさではなく、明るい曲調の中でほんのりと感じられる切なさは長く愛される楽曲に必要不可欠なエッセンスなのかもしれません。

 

 

 


3  ラッパーラインの新たな魅力

 

 

『Permission to Dance』では、BTSの楽曲の魅力の大きな部分であるラップがありません。その代わりにコアなファンにはミックステープなどで馴染みのあるものではありますが、まだまだ新鮮に感じる人が多いであろう、“ラッパーラインのボーカル”という新たな魅力を味わうことができます。

RMは先日のVliveで、制作過程においてラップを入れるかどうか様々な議論があったけれど、曲の流れが止まってしまう為、入れないという選択したという経緯を話していました。
BTSのラップが好きなファンたちが悲しむかもしれないことは想定の範囲内だったからこそ、そのことに言及してくれたのではないかと思いますが、数々の名曲と同じ構成を持つ今回の楽曲ではこの選択はとても自然なものだったのではないかと思います。
そして、新たな魅力を見せてくれたラッパーラインの3人による歌パートにも3人ならではのこの曲の魅力が詰まっています。

冒頭でバッキングとしてくり返されていたリズムがChorusの最後で歌のフレーズとして登場する、
“ Don’t need to talk the talk, just walk the walk tonight ”の場面。

初めからずっとくり返されていたフレーズが満を辞して登場し、開放感を感じさせるキラーパートです。
ラップのVerseに比べれば一瞬で過ぎていくフレーズですが、その中でも3人の歌い方の違いにそれぞれのラップに感じられる持ち味が存分に発揮されています。

 



まずRMパートでは休符ごとに息継ぎをしているものの“talk”の後ろで吐く息の量が多くなることでより単語が長く聴こえることから、頭の中に歌詞の文章そのものをイメージして歌っている様子が伺えます。


言葉の文節を繋ぐようなRMの歌い方は、BTSの楽曲のたくさんの詩を担当し、英語も堪能な彼が、日頃から言葉を大切にしている様子が感じられます。


J HOPEのパートはフレーズを一息で歌いつつ、休符ごとに息を止めてストップしているイメージです。この歌い方はまるでダンスを踊っているかのように、より明確にリズムを感じさせてくれます。


そしてSUGAパートでは一つ一つの単語ごとに短く息継ぎをしています。
BTSの楽曲は、通常の音源ではカットされている息づかいの音をあえてそのまま残すことで、リアリティや熱量を感じさせてくれることが特徴ですが、今回の楽曲のこの部分でも短いスパンで聴こえる息遣いにより、より濃密に曲の盛り上がりを感じられます。


この3人の歌い方がどこまで考えられているのか定かではありませんが、もしもパートの順番が変わっていたら今の聴き心地の良さは出なかったと言い切れるほど、一曲の中で、絶妙のバランスを持ってほどよいスパイスになっているのではないでしょうか。




 

 



4  ボーカルラインの心地良い音色と余韻


 



曲の始まりのJungkookの声の味わいは、先述したように耳にした人の心を惹きつける魅力があり、それに繋がるRMの声のトーンもJungkookの声とよく馴染むとても柔らかな音色を生み出しています。そこから繋がるボーカルラインのバトンはとても滑らかで耳馴染みがよく、この声の聴き馴染みの良さはBTSの持つ魅力の大きな一つだと思います。


音源ではエフェクトがやや強いもののステージでのパフォーマンスでもその美しさを損なわないことも彼らのすばらしい点です。

またVerse 2以降では、ストリングスとホーンの音で彩られたサウンドにボーカルのアドリブが重なることによってより大きく盛り上がりを押し上げていきます。


2:18~ JIMIN→Vの場面ではボーカルラインの4人の中でも声のトーンが両極端な2人のHighからLowへの繋がりが全体的に角のない音楽の中で良いアクセントになっています。


そして伴奏が止み、ビートとハンドクラップだけの場面をボーカル力だけで魅せる4人の声の美しさは圧巻です。
(ここでもエルトン・ジョンの『Border Song』のような匂いが感じられるのはエド・シーランの仕掛けた遊び心なのかもしれません…?)
Jungkookの明るさの中に切なさを漂わせる歌声、JIMINとJINの歌声には芯があり伸びやかな高音やアクセントを彩ります。


そしてラストの
“‘Cause we don’t need permission to dance”はVの優しい声で閉じますが、他の箇所とは違い、優しく言葉を置くような歌い方をしています。
Vの持つ優しい人柄が滲んだような、温かくて柔らかな歌声で放たれる最後の響きは、包み込むように曲を聴き終えた瞬間の私たちの耳に柔らかな余韻を残します。

 

 

 

5  Permission to Dance

 

 


『Butter』ではJungkookの息の音がビートに組み込まれていたり数々の名曲へのオマージュがこれでもかと詰め込まれた遊び心や、ダフトパンクのような洗練されたサウンドが特徴的だったのに対して、“禁じ手”とも呼ばれ、ある意味では新しさもなく使い古されたコード進行と楽曲の構成を見事に現代のポップソングに仕上げた『Permission to Dance』は、今の人気を確立したエド・シーランとBTSだからこそ挑戦できたことなのではないかと思います。

 

“HIPHOPボーイズグループ”としてデビューしたBTSに対して、最近、もうHIPHOPはしないのか?という記者からの質問が投げられたことがありました。ラップのない楽曲に一部のファンが驚いたのも事実でしょう。
多くの人が待ちに待った彼らの新しい曲に心躍らせる一方で、BTSは欧米で売れることを目指したような曲しか歌わなくなってしまった…という感想を抱く人もいたのかもしれません。


 

これは個人的でとても奇特な感想なのかもしれませんが、すばらしい音楽や最先端の演奏の技術など洗練された音楽があふれる世界で、あまりにもシンプルな楽曲はある意味とても大胆な挑戦のように感じます。名曲のコード進行とはいえ、ここ数年世界で活躍するアーティストたちはその古くからある構成を使っていないことからも、手堅い手段を取ったのではなく、彼らにとってのこの曲は新しい冒険だったのではないかと思います。


 

『Butter』が5週連続 Billboard HOT100の1位になった日のVliveで、とてもワクワクした様子で新曲はすごく良い!と口々に言っていたあのうれしそうな笑顔からも、日本語や韓国語、英語といった言語の垣根の概念を飛び越え、ただ自分たちにとって新しい挑戦を続けている彼らの姿を感じられたような気がしました。
この世界にすでに溢れかえったたくさんのシンプルな名曲たちの中で、
“誰もが気軽に楽しめる音楽”の魅力を引き出すことは簡単なことではなく、 常に私たちの想像を飛び越えていくBTSの7人だからこそできたことなのではないでしょうか。



止まってしまった世界で、
“僕たちが踊ることに許可なんていらないから”という歌詞のように、音楽を楽しむという気持ちは誰にも止められるものではありません。

 

Let’s break our plans
And live just like we’re golden
And roll in like we’re dancing fools
(『Permission to Dance』より)


この詩のように、楽しく、踊るようにただ輝いて生きようというメッセージは、彼らが今、世界に発信したかった想いであり、
きっと数々の名曲がそうであったように、
『Permission to Dance』はこれから先の長い時間の中で、私たちの心が荒んだ日に、ふと心を軽くしてくれるようなそんな大切な音楽になるような気がします。
ここに書かれた蘊蓄の数々や誰かの巧みな言葉で書かれた批評は、時には面白くその対称の魅力をより一層感じさせてくれるものですが、楽しいと感じる想いや好きや嫌いといった感情は、そうしたものたちによって正解を決められるものではないはずです。


例え誰が何を言おうとも、
その音楽を耳にしたとき、輝やいて生きるように踊る7人を見つめるとき、もしも心が震えたのなら、それが一人一人の答えのはずなのです。

 

 

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※この記事は2021年のnoteからリライトしたものです。